マグロになった私

私が新しく働くホテルは、レストランもフロントも兼任している。
旅館のスタイルに近いかもしれない。

そして今日から数日間の研修はまずはレストラン、しかも夕食だ。
私は料飲の経験はほぼゼロに近い。
前の前の職場ではレストランのヘルプに入ることもあったので
本当は生ビールの注ぎ方や一応レストランの流れも知っている。
でもあくまでヘルプで入っていた程度なので全くのド素人、と伝えた。
フロントや予約とは全く違う体力勝負。
こういうのも嫌いじゃないが、正直勝手が分からない。

ここの食事の内容は和食。懐石料理である。
レストランの人員配置にはそれぞれ役割がある。
シェフ・ド・ラン、コミ・ド・ランそしてランナー、デシャップなどなど。
なぜ和食のレストランでフレンチ用語なのか…深くは考えまい。
シェフドランは出来上がった料理をお客様に出したり、
食べ終わった皿を下げたりする。いわばゲストと接する最前線。
コミドランは客からの注文を調理場に伝えたり、什器備品などの管理をする。
そしてランナーはひたすら皿を洗い場に持っていったりするいわば雑用係。
デシャップは料理の進行担当。厨房にそれぞれのテーブルの料理のオーダーをかける係である。
一応そんな役割なのだが私は雑用のランナーからスタート。
でもここのレストラン、コミがいないも同然。
ランナーが注文を伝えに行く係りも兼ねている。
ホールとキッチンの間を行ったり来たり…それが一方通行でグルグル回る流れになっている。
あぁあっちで皿が下がった、こっちで料理が上がってホールに持っていかねば…
お、新規来店、おしぼりおしぼり…
そんな事をしながら一体同じ場所を何十周回っただろうか。
足早に歩き皿を下げ、料理をシェフドランに渡し…そして唐突に気が付いた。
まるで私の動きは水族館のマグロだ。
マグロは回遊魚。いつも泳ぎつづける。立ち止まらない。

今日1日マグロになった私。
そして明日もレストランでランナーという名のマグロになる。