全否定

送迎しようと車に乗せたお客様がなぜか怒っていた。

私がいるホテルは駐車場と客室が1キロほど離れている特殊な設計の宿だ。
離れているのには理由がある。
車を置いて離れる事で非日常の空間を楽しんでもらいたいからだ。
だけどそれはあくまで宿側からの提案でありコンセプトだ。
同意頂けないお客様も中にはいらっしゃる。
お怒りのお客様の言い分としては、いちいち待たされるその非利便性が耐えられない、と。
敷地に引き込んで流れている川もそこにプカプカと浮いている水行灯も所詮人工物でしかない、
それならそんな意味のないものは排除して近くに駐車場を作る方がよっぽどゲストのためだ、と。
どうせ非日常だというなら通路のライトなんて全部なくして漆黒の闇にしたらいいんだ、と。
・・・全否定。

なんだか悲しかった。
そのゲストの意見は意見として受け止めるけど、
なんでも便利に手に入れられる今の現実世界から離れる、というこちらの滞在の提案は
全否定だった、ということだ。
ただの運転手のあなたにいちいち文句をつけてもしょうがないけど、とおっしゃっていたけど
第一私はただ送迎だけしている運転手でもない。
滞在全般をプロデュースする立場のはずがなんだか自分の立場まで全否定された気分だった。
そのゲストは明日も滞在されているけれど、きっとイライラしながらこの旅行の日程を過ごされる訳だ。
それもまた悲しい。