人生の岐路

チェックインの大波が落ち着く頃、
レセプションカウンターのチェックイン時に書いてもらうカードに知っている名前。
署名の字は見慣れた字・・・。
偶然にも前職の新館オープンの時に大変お世話になったコンサル会社の方が泊まりに来ていた。
ちょうど客室や館内を見学したいという要望があったようなので、
私に行かせてもらうようにお願いして久々にその方とお逢いすることにした。
去年の春にはそのコンサル会社と前のホテルとの契約が切れてしまい、それきり会ってないので
多分お逢いするのは1年半ぶりぐらい。
当然その方は私は転職してここで働いている事を知らない。
驚かせようと思って、お部屋にお久しぶりです!!と内線。
お部屋にお迎えに上がり、偶然の再会を喜び、
敷地をてくてく歩きながら前のホテルと比べての事や
(本当は話してはいけないんだろうけど)ここの現状などをぽつりぽつりとお話しながらご案内。

今の自分がここにいる事も、そして今こうして日々顧客とは、なんて考えているのは
前のホテルのそうそうたる方々と出逢ったからだ。
彼らに教えられ、そして鍛えられたからこそ今の自分がいる。
ここでマネージメントの事を勉強したり、オペレーションで揉まれ、いろんな経験をして
そしてあと5年したらうちに来ない?と、その人は唐突に言った。
うちがこれからかかわっていく小規模のホテルをあなたに任せたいから、と。
あなたにはきっと出来るはずだ、と。

正直私は将来のビジョンなんてまるで持っていなくて行き当たりばったりと、
恵まれた出逢いの運とでここまで来ている。
5年前の自分がこうしてこの土地で働いている事も想像もつかなかっただろうし
それと同じようにこの後5年後に自分がどうしているかなんて分からない。
当然今の私には経験も足りない、自分の接客に自信をもてるかといったら、
まだまだ勉強の日々、そして日々模索中だ。
だから余計に5年後なんて私にとってははるか先の話を急に持ちかけられてもさっぱり現実味がない。

もちろん今の自分には手の届かない話で実感なんて全く湧かないし
まるで雲をつかむようなその話だけど、それでも間違いなくそれはすごく刺激的な話で
そしてその話を受けるには必死に今後5年いろんな事を吸収し、
学んでいかなければいけない事もよく分かっている。

3年半前、前のホテルで総支配人と面接したときに、
田舎の研修ホテルからやってきた私が勢いで言ったことがある。
夢は接客のスペシャリストになること、そして更に大きな夢はホテルの総支配人になることだ、と。
よくもまぁ大それた事を言ったものだけれど、
もしかしたら私の人生のはるかかなた延長上で、その夢が叶うかもしれない。
途中から敷地の案内も何もない、ただただビジネスの話をしていたのだけれど
1時間も広い敷地をプラプラ散歩しながら、
自分の見えない先の話になんだかすごくドキドキしたあっという間の時間だった。

握手をして別れたその後も何故だか動悸が止まらない。
私は今年30歳になる。
結婚がどうとか、この先どうするのか、そんな事を周りに心配される年齢。
今日この日が、自分のこれからの進む道の分岐点になる気がする。