瞬間湯沸かし器とマグマ

残業がかさんでいて帰りたかったのは事実だ。
その時点で残業は5時間を越えていた。そして7時間後にはもう出勤している。
それは私自身の事情。
無論人に仕事を押し付けるつもりもなかった。

帰り際にまだ仕事が終わらずに残っていた別のセクションの人に
フロントの仕事をひとつお願いしようとしたら・・・逆鱗に触れ。
まるで瞬間湯沸かし器にボッと火が付いたかのように
私の依頼に対して、ものすごい剣幕で矢継ぎ早に不満の言葉が返ってきた。

言い合いをするつもりもないが相変わらずのきつい口調。
正直その口調に対して疲れていた私は心底カチンと来たのだけれど
ここで言い返しては、ただの逆切れである。
なんせ仕事をお願いしようとしたのは私なのだから。
お願いされる側の事情だってあるし、疲れているのはお互い様。

そう思って、ぐっと言葉を飲み込む。
そして結局更に1時間残って黙々と仕事。
何か軽口を叩いたりしたら、飲み込んだ言葉が堰を切って出てきてしまいそうだったから。

我慢するのは良くないとも思うし周りにもそういわれる。
溜めるのは良くない、と。
多分私の怒りの理由は、
相手が私が頼んだ仕事を請けなかった事じゃなく、その断り方に問題があったのでは?ということ。
だけど、そんな議論、燃え盛る瞬間湯沸かし器の状態の人に対して得策じゃない。
何より人との諍いは余計にどっと疲れる。
だから私は諍いを避ける傾向にある。

でも本当はほんの少し、そんなカチンと来た誰かの主張に対して
即座に応戦できる人をうらやましくも思う。
多分私自身相当短気なはずなのだけれど、
大抵私は、感情が先走って的確な言葉が出てこなくなる。
思考にロックがかかってしまう。
後から悶々と考え込んでふつふつとマグマみたいに静かに怒りが自分の中で湧いては消え。
湧き上がる静かな怒りの中で、置かれた相手の状況を考えたり言葉の意図を振り返ったりして
相手の事情もあるんだし、と反省したり気遣ったり様々な事を思案するうちに
その怒りは終息を迎えることになる。

人それぞれ感情表現は異なる。
私は、大抵そこで自分が折れる事を選択するけれど、
喜怒哀楽、の怒の部分だけ押さえ込もうとするのは良くない事なんだろうか。
誰かと衝突するたびに、そんな事をいつも考える。