人が人をもてなすために

先日実家に帰る途中のことである。

最近、帰省途中に新しいお店の開拓をしようと思っている。
そうすることで帰り道の楽しみが増えるから。
それがラーメン屋だろうがカフェだろうが、お店のジャンルは拘らない。

先日の目的地は山のふもとにある子羊のグリルやハンバーグが売りの小さなカフェ。
そこで遅めの昼ごはんを食べる予定だった。
だが、免許を忘れて取りに戻ったりして出発が遅れたばかりか、
大通りのどの辺りから道をそれればいいのか分からずに大幅に通り過ぎてしまい戻る羽目に。
おかげでお昼ご飯でもオヤツでもない、
もうオーダーストップ間近の夕方にようやく店に着く事になった。

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細い民家と民家の間の砂利道を進んだ中にあったその店は、
空き地の駐車場に車を停めても
建物が見えない程鬱蒼とした雑木林の中にあった。

木のトンネルをくぐりぬけた中に、目的のその店はあった。
テラスに一組お客さんがいたけれど、もう帰る間際、店内にはお客は誰もいない。
おずおずと店に入ると、白い髭をたくわえたおじいさんが一人。
そのおじいさんに、もう遅いですか?と控えめに伺ったら、
大丈夫だがハンバーグはもう終わってしまったので
パスタか飲み物だけなら・・・と。




控えめに声をかけたくせに、実は3時間走って軽井沢から来たんです、と悲痛な声の私。
苦労してやっとたどり着いた感もあって、
どうしてもハンバーグを食べずには帰れない心境だったのだ。
それを聞いて目を丸くするおじいさん。

そしてにっこり一言、お時間いただければ作りましょう。
ご無理言ってすみません。空腹に勝てなかった私。


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奥からそのおじいさんの声を聞いて出て来た
恰幅のいいお嫁さんが焼いてくれたそのハンバーグは
涙がでるほど美味しかったのは言うまでもない。




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食後に丁寧に入れてくれたコーヒーを飲みながら
のんびり庭の景色を眺めていたら、
小さなお皿に杏のジャムが乗ったクッキー。
キョトンとしていたら、今自分のオヤツに、と焼いたので
おすそ分けです、と。
もし一人で話し相手が欲しかったら
声をかけてくれればお相手しますよ、と。

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クッキーは本当に今の今までオーブンの中にいたらしく、
熱くて触れないほどだった。
コーンミールが入ったさくさくの香ばしいクッキー。
コーヒーを飲みながら、
ふと、ホスピタリティーってきっとこういうことだなぁと思った。

言葉遣いとか立ち居振る舞いは基本だけれど、
心があるサービスって口では説明できるものじゃない。
お腹を空かしてしょんぼり肩を落とした私を見て、
見るに見かねて作ってくれたハンバーグや、
一人で退屈しやしないかと控えめに声をかけてくれたことは
マニュアルでもないし、人が、人をもてなすためにしてくれた事だ。

仕組み作りやオペレーションの効率化だなんて
最も私の苦手とする分野で忙殺される日々で
ぐったり塞いだ気持ちは相変わらずだけれど
この仕事での原点に還れた気分で店を後にした。


カフェブロッサム
住所 栃木県佐野市飛駒1559
電話 0283-66-2254