秋の風に乗って

霧雨が降る1日。
涼しい、というよりもはっきり言って寒い。
長袖を着ていてももう1枚羽織るものが欲しいぐらい。
いっきに秋がやってきた。

この時期いつも感じるのは、風の匂い、虫の声。
落ち葉の匂い、土の匂いがひんやりとした空気に漂い、
ゆったりとコロコロ鳴くコウロギ。
紅葉前のリゾートは寂しい、という声もあるけれど
熱気を含んだ喧騒の風が一段落した今の時期は妙に落ち着く。

すっくと空に向けて真っ直ぐ立つ枝、そしてかわいい丸い葉を付けたカツラの木が
敷地に生えているのだがこの木、昔は香の木、と言われていた。
つまり香る木なのだ。
湿気を含んだ雨上がりや霧の日にカツラの木の近くを通ると甘い甘い美味しそうな香り。
メイプルシロップにも似たお菓子屋さんみたいな匂いは
気にしなければ、なんとも思わないのかもしれないけれど、
気をつけてその木の近くでゆっくり息を吸い込むと胸いっぱいにいい香り。
カツラの枝から香るのか、それとも葉から香るのか
どうにも気になって、ふと周りを見回して幹に鼻を近づけてみる。
いや、枝かな?葉かも・・・
後から自然観察のツアーのスタッフに聞いてみたら葉から香るらしい。
ずいぶん怪しい。木の周りをグルグル回ってくんくん鼻を近づける私。

虫は気温が高い時期はせわしく速く鳴き、気温が下がるとともにゆったりと鳴く。
数日前よりもだいぶゆったりしたテンポで鳴く虫の声をBGMに
カツラの甘い香りを胸いっぱいに吸い込みながら帰る夜。