ぬっこ 途方に暮れる

相変わらず日々の日課で近所のファストフード店に赴いて、
何か飲み物をお供に書き物をしながら一服。

大抵いくのは夕食を食べ終えてからなので何を食べる訳でもないのだが、
なんとなくその静かな場所が落ち着くのと
考え事をするのにもってこいだから通っている。
あまりに連日行くせいで
店員さんも私が何を頼んで、灰皿を使うかどうかまで
いつの間にか覚えてしまったらしく、
そこでは無愛想な方な私は特別な言葉を交わした事もないが
なんとなく通り一遍な対応ではなくスムーズに対応してくれているように感じる。

いつものようにそこで1時間程過ごしてレンタルビデオ屋に寄ったのだが、
そこで借りようとしてふと気づいた。
…財布がない!!
車に戻ったが見当たらない。
血の気がひいて、指先がすーっと冷たくなるのを感じる。
最後にお財布を使ったのは…そのファストフード店だ。
まずはレンタルビデオ店の駐車場や店内、先にボックスに返却したDVDに紛れていないか再度確認。
それでもないので、ファストフード店に逆戻り。

血相を変えて戻った私に目を丸くする店員さんたち。

座席やフロアを探してもらい、外まで見てもらっても見当たらない。

もうどこかで拾われちゃったかも。
財布自体は別に大金が入っている訳じゃないけど
カードや免許証、どうしよう。
それにしても、ああ星がきれいだな…
本当に途方に暮れると人は目の前の現実から目をそらそうとする。
日付が変わろうかという頃の冷え切った空気は体の芯まで冷えさせる。


困り果て、うなだれて帰る途中、別れ際に聞いた店長さんの一言を思い出した。
『座席の下とか車の中かもしれませんね』
車を路肩に止めてもう一度確認してみたら…あ、あった!!
暗い座席の足元の影で一度見たがどうやら気づかなかったらしい。

よかった…

昼間ちょっと立ち寄った時に探してくれた店長さんが見当たらなかったので、
店長さん宛てにメモを残してきた。
『昨夜はお騒がせしました。無事に財布見つかりました。
いつも気持ちよく利用させてもらっています。ありがとう』

そしていつもの静かな時間。
いつものように飲み物を頼む私。

会計をしたあとで店員さんの一言。
見つかって本当によかったです、とニッコリ。
あれから更に探してくれていたらしい。

何気ない毎日の中の小さな小さな事件。
ただ、まぬけなのは私なんだけど。