泣きたくなるほど残念な出来事

書かなかった間にあった事をポツリポツリと。

家の契約には現地に両親と赴いたので、久しぶりの温泉旅行を兼ねて。
ギリギリでの予約、しかも連休中だったので期待した宿も思うように取れず、
20軒近く片っ端から問い合わせてやっと取れた宿。

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大正期の文化財級の建物の古い旅館で
部屋なんて、かけっこができそうな程広い
100平米近い特別室(それしか取れなかった)
窓からは素敵な雪景色が見える庭園。

だけど…
実はこの旅行、泣き出したくなる程
私にとって残念な出来事になってしまった。

不慣れと思われる仲居さん。
部屋は露天風呂ではなかったのだが、
露天風呂です~と案内されて、あれ??
それから1時間ほどしてから、露天風呂のある部屋もあるけど移りますか?ですって。
間違えて案内してしまったなら、
一言謝罪すれば済むのに、何やら言い訳と、取り繕うのに必死な様子で、
裏方では何事かこそこそと相談している。
何か他のゲストとの兼ね合いで不具合でもあったかと
宿側の心配をしてしまった。

これから新しくこの土地に引っ越してくる関係もあったので
現住所に案内の郵送物を送って欲しくない、と記入したら、
何か勘違いをされたようで、
しばらくして私が席を外した時に『あの~お連れはお嬢さん・・・ですか?』と
怪訝そうに仲居さんに聞かれたとか。
どこから見ても両親と娘だろうに…。
そもそも不審に思ってもダイレクトに聞いちゃいけない。

きっと距離の取り方、分からないんだろうな。

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部屋の立派な掛け軸に書いてある文言を質問したら
さぁ知りませんねぇ…知るわけないじゃん、と言わんばかり。
分からないのなら調べてくれたら嬉しかったのに…
ちなみに後で調べてみたら、
コノテガシワの木が庭の前に見える、という曹洞宗の開祖、
道元の著した正法眼蔵からの言葉。
泊まった部屋は『柏』の間。
つまり部屋と掛け軸はちゃんとリンクしていた、というわけ。




料理はタイミングがどうとかそういう話以前に
一品出すのを忘れられていた。
出し方やタイミングもそうなんだけど、
いわゆる書ききれない程の、
『失礼』にあたるであろう行動、言動のオンパレードで、
飲んでいた父、ずっとずっと我慢していた様子だったのにとうとうキレた。
父はもともと怒りっぽいせっかちな職人さん気質なのだが、
自分の今までのそんな行動を悔いていて、
最近では声を荒げる事なんて皆無だった。
10数年ぶりの家族旅行、両親にとって初めての箱根、そして宿を選んだのはこの私。

まさかこんな展開になるとは思いもよらなかったけど、
声を荒げた事で明らかに自己嫌悪に陥った父、
だだっぴろい部屋に充満する気まずい雰囲気。
せっかくの旅行なのに…私自身、怒った父はもう20年近く見ていない。

残念で残念でたまらない。
悲しくなり泣き出してしまいそうな私。

その重い空気に窒息してしまいそうで一人で温泉に出かけて
ぼんやりため息をついていたら、間が悪い事にお風呂の中で担当のダメ仲居さんとばったり。
お父さんの機嫌直りましたか?と気まずそうな笑みで開口一番問われて、私も爆発…。

自分も同じような仕事をしている事、
今回の旅行は私にとって大事なものだった事、
この接客という仕事に対して
私がどう考えているかを静かに切々と語った。

彼女は(といっても両親よりおそらく年上に見える方だったけど)
まだ入ってまもない方で仕事を体力的に年齢的にきついと
続ける事に限界を感じて早々に辞めようとしていた。
私は一旦ブランクの長い休みを経て、
やっぱりこの仕事が好きだからと、一からやり直そうとしてるいわばスタートライン。
だけど目の前にいるそのダメ仲居さんは、幕をひこうとしている。

最後は怒りというよりも、やりきれない思いでいっぱいになり、
余計に泣き出したい暗澹とした気分。
お風呂を上がって立ち寄ったパブリックスペースに置いてある帳面には、
かつて宿泊した方たちの、楽しそうな言葉が並んでいた。
それを見ながらこらえきれなくなって、
楽しげな言葉が綴られたページの上に涙がポロリとこぼれた。

そして一言だけ私もそこに書いてきた。
『おもてなしするという事について
深く深く考える滞在になりました。ありがとうございました』
サービスは作業じゃない。人だと思う。
そんな持論を、逆の出来事でひしひしと感じさせられた、
温泉で十分温まったはずなのに寒い寒い夜。

翌朝、帰り際に出された領収書には、かなりの金額が割引かれ、
そして次回利用出来る割引券が一緒に渡された。
だけど。
お金の問題じゃない。
間違えには真摯な謝罪が必要なんだ。
結局きちんとした謝罪はなかった。
更にうなだれた私。

宿屋は寝る場所を確保するだけじゃない。
金額の中にはその空間と時間を過ごす付加価値が含まれている。
その価値を何倍にもし、また半減させも台無しにするのは、まぎれもなく、人だ。

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帰り道に見た、見事な見事な富士山。
唯一の救いだ。
こんな雄大な景色の前では、
これもちっぽけな出来事なのかもしれないな。
立ち込めてずっと晴れなかった重い重い気持ちが
ほんの少しだけ軽くなった。
さすが日本一の山。