理想と現実の狭間で

今日は当日予約祭り。
連休最終日の今日は意外と部屋が空いていたのだけれど、
あれよあれよという間に部屋が埋まっていく。
ふらっといらっしゃって食事が出来るレストランとは性質が異なるゆえ夕食も完全予約制。
当日の手配にも対応出来るようにある程度の食数は確保出来るのだが今日はそれも完売。

最後のお客様、日帰りでお風呂に入って夕食を召し上がってお帰りになるリピーターの方だった。

食事手配は出来るのだが…お風呂はどうしてもダメ。
お湯は減るもんじゃないし、と思うのだけれど、やっぱりルールはルール。
大浴場は宿泊客のみなので、日帰りは絶対ダメ、と。
郷に入れば郷に従うしかないのよね。うーん…。

やっぱダメだよね、と何度も確認したけど、答えは覆らなかった。

そのお客様、お風呂に入れなかったら
その辺のレストランで食事して帰るので食事もキャンセルすると言い出した。
せっかくなんとかお願いして確保した食事も無駄にしたくない。
それに帰り際におなかが減った、とうちのホテルを思い出してくれたお客様の願いもかなえたい。

そうだ!ちょうどお客様がいらっしゃるのは私のかつていた場所付近。
無理を承知でかつての同志にお願いしてみた。
…うちで食事するお客様の日帰りお風呂利用、受け入れてくれないかな。

忙しいのに、快く二つ返事!ありがとう!!!!

お客様には本当に小さなホテルですが、とってもいいお湯なんです、是非!とご案内。
あの温泉は本当にいいお湯だ。
それに、なんせみんなで湯守して大切に守ってきているお湯。
今働いているホテルとは少々異なる。当然客単価だって違う。
でも、おもてなしの心はどこのホテルにも負けない。今でもそれは胸を張れる。
だって、みんなで作ってきたホテルだもの。

ちょっと癖のあるお客様だったのだが
迷子になったそのお客様を近くまで迎えに行き、そしてホテルまで車で誘導してくれ
無事に要望通り温泉に入り、うちのホテルに食事にご到着。

すぐ近くですから、そう言って当たり前にしてきたそれらのサービス。
でも今思えばどこのホテルだって迷子になった方を電話で誘導することはあっても
そこまで迎えに来る事はない。
実は迎えにくるその瞬間まで、私はその方に食事の打ち合わせで電話していた。
今ね、迎えに来てもらう所なんです、とお客様。あ!きたきた、と嬉しそうな声。
ぷつりと切れた電話。

あ、もう大丈夫だな、と何となく思った。
だって、その方に対して悪いようには絶対にしないから。
なぜなら私とお客様の電話の先にいたのは私が絶対の信頼を置いている仲間だから。

このご恩は3日、いや5日ぐらい忘れません、なんて無礼な言い草で
同志にありがとね、と後から御礼を言った私。
そして私が「ぬっこだけど、ねーお風呂入れてくんないかな、うちのゲスト」なんて
そんな口調で話す私を事務所の人たちは不思議そうな顔で眺めていた。

なぁ、お前、お客様に入浴料金の案内しなかったんじゃないのか?大丈夫か?と上司。
ん?ええ、まぁ。(取らずに入れてくれた。ありがとう!)

どうしても温泉に入りたいゲストがいて、そこに温泉があればいれてあげる。
それって当然のことのように思うのだが、なかなかそれがかなわない場所もある。
それを叶えて差し上げられるフィールドが、前職のホテル。

理想と現実の狭間にいる私。

正直に言おう。
今、私がここにいる事は最終目標ではない。
第一私はまだリハビリ中。(今日は18時間も働いておいてリハビリもないが。それはさておき)
ここで何か大きな動きを起こせるだけの力もないし
私自身にもまだまだ時間が必要。
だけど、おもてなしって何?という私の命題を考える上で
今の場所で日々お客様と接して日々ダメ出しをされたりもがいたり、時に嬉しいことがあったり
そんな中で学ぶものは計り知れない。

そして、何よりも出逢った素敵な仲間たちに助けてもらって今の私がいる。
それを心から感じた日。心から、心からありがとう。