ひねもすのたり、のたりかな

イメージ 1お散歩のひとこま。
真っ青の空、悠々と旋回するトンビ。
みかんも太陽の光を受けて緑から橙に色付きつつある。
最近のお気に入りはみかん畑で空を眺めてのんびりする事。
聞こえるのは木々の葉擦れの音や野鳥と
この時期の特徴、キョーンという
メスを呼ぶ牡鹿の鳴き声だけ。

 
 
 
人様のミカン畑に(たぶん不法侵入して)腰をおろして空を眺めていてもイメージ 2
時々足元にオンブバッタがピョンッとやってきたりする程度。
恐ろしいほど誰もいない。
道端を歩いている人がいない=田舎の特徴だと思う。
本当にのどかだ。
一応ここは温泉地、観光地でもあるのだが
ミカン畑があるのは温泉街からも住宅街からも離れた
山の急斜面。
たぶんここにやってくるのは、ミカン畑の主だけに違いない。
 
目の前にはたわわに実るミカンがあるが、
それをもいで食べたらただの泥棒だ。
だから、何故か家から持参してきたおやつのバナナを頬張っていたりする。
なぜわざわざ山奥のミカン畑でバナナを食べているのかは謎だが。
いや、たまたまそこに行き着いたところでおなかが減ったからであるからして…。
 
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別の方向に行けば、歩いて15分ほどで砂浜がある。
海岸線に近い場所の海面近くに回遊魚の群れがやってくると
サバやスズキやソウダガツオなど大型の魚が
餌になる小魚を追いかけ回すせいで、
無数の魚が海面にピョンピョン飛び跳ねる。
銀色の魚体が太陽に反射してキラキラ。
釣り用語では「ナブラが立つ」というそうだ。
そこに竿を垂らせば
多分ものすごい勢いで釣れるに違いない。
そして手前ではへたくそサーファーさんがぷかぷか。
足元には猛スピードで走り抜けていく小さな小さなカニ
 
 
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ここは山も海も「いい所取り」出来る場所だが、
私にとって海は非日常、山が日常。
潮風もさざ波も悪くないけれど
もともと海無し県の里山育ちのせいか
木々を吹き抜ける風と緑の匂いの方が
何となく落ち着く気がする。
止まったかのようにゆっくりゆっくり過ぎる時間。
どう過ごしても、刻む時間の速さは変わらない。
ゆっくりと感じる時間を過ごす事。
その時間を退屈だと思うようになったら動き出そうと思う。
 
「生きる事は痛みに耐える事」
映画「ロング・キス・グッドナイト」の主人公が自分の娘に向かって言った言葉だ。
全てに於いてそうだとは思わない。
もちろんアクションの映画みたいに闘ったり隠れたり逃げたりするのが日常なんて実際にはない。
楽しい事もあるし、のんびり過ぎる何でもない日だってある。

だけど…今痛みに耐えて日々過ごす現実があるのも事実。

それは私だけじゃない。
誰だってそうだ。楽しい事ばかりじゃない。
皆それぞれ多かれ少なかれ某かを抱えているものだ。
胸の片隅にあるコップの水が空っぽになる事は多分ない。
ある程度水がたたえられたと思うと、ある人は旅行に出かけ、ある人は釣りをし、ある人は無心に走る。
とにかく一旦ふっと現実から離れる事でコップの水は気付かないうちに
そのコップの水はあふれる事なくひっそりと減るんだと思う。

実は、私が願い出た4ヶ月分の休職願は完全には受理されなかった。
譲歩した上で3ヶ月までが会社からの回答。
それ以上は待てない、と。
10月からの休職扱いなので、在職は年内までと決まった。
それまでに戻る決断をしなければ、自動的に退職の道しかなくなる。
それを告げた上司はその2カ月を「しかない」ではなく、「もある」と思えと。
決してプレッシャーに思うな、そう言った。

これが現実というものだ。
会社の社訓に「義に徹し、恩に報い…」云々な言葉があったが
「義に徹し、恩に報いた」結果、働けなくなったらリストラ宣告、ときたもんだ。
「正社員でしたよね、そんな話今まで聞いたことない、本来は1年半権利はあるはずなのに」と主治医は苦笑い。
…でもクビだろうが何だろうが、正直なところ、もうどうでもいい。
負け惜しみをいうつもりもないし、会社相手に闘うつもりもない。
その期間内で戻れば平均して月276時間の労働と引き換えに生活していけるぎりぎりの給料が約束されるが
その労働時間に耐えられる体力を取り戻すのは無理だし何よりもそんなに働いちゃダメだ。
多分「ぬっこ」という生き物はそんなに働けるようにはもともと出来ていない。
 
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話は戻るが、生きる事は痛みに耐える事だけじゃない。
見上げれば青い空。
お日様の匂い、眩しい緑。潮の香り。
それらはほんのひとときであっても幸せな気分にさせてくれる。
 
まだ痛みは消えない。
その「見えない」傷の痛みが薄れるにはまだ程遠く、そして随分と疼く。
それでも私は、ゆっくりだが胸をはって歩き始める。
一歩一歩。波に足跡を打ち消されても、それでも一歩一歩。
 
それがその「見えないコップ」の水を減らす、
ただ唯一の方法だと思うから。