なくしたピースを探して

ぶらりと出かけるには、ちと遠い場所だが・・・思い立って那須に行ってきた。
「思い立って」というよりも土地勘がある場所なので、
あてどもなく遠出しようとすると大抵足が向くのは北の方向だ。
 
ちょうど今、ひな祭り寒波が来ている。
私が住む場所も晴れ渡って星が鮮やかに見えてきーんと冷える、完全に冬の空。
そんな日に北上したら…当然雪だ。
 
那須は、県道に沿って店が立ち並ぶ。
それらを抜けると、硫黄の香りがどこからともなく香る古い温泉街。
温泉街に差し掛かる頃になると標高もぐぐっと上がってくるせいか
いつの間にか雪が、空に張り巡らされた枝々をすり抜けてはらはら落ちてきていた。
那須地域の中でもこのメインストリートとなる県道の街側、中程、山の上の方と気温も天気も違う。
 
温泉街がまばらになる頃に、那須神社があり、その奥に史跡「殺生石」がある。
硫黄のにおいがするのは、この殺生石があるから。
箱根でいうところの大涌谷みたいなもので温泉の源泉地のようなところである。
 
那須に住み、その後箱根の仙石原に住んでいたせいか、この硫黄の香りは妙に落ち着く。
世間的には、「臭い」と言われる匂いだが、
私にとってはその匂いは懐かしくもあり、またなんとも言えない気分にさせられる匂いだ。
 
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那須神社の手前には、那須のシンボルでもある赤い九尾の狐をかたどられた、「ぼんぼり」が立ち並ぶ。
音もなくはらはらと落ちてくる雪の中でぼんぼりの明かりが点々と道沿いに燈る。
そこは神社も殺生石も特にライトアップされている訳でもなく人気なく真っ暗な所でぼんぼりの明かりだけ。
人によってはあんな不気味な所に、というかもしれないけれど、ここは実は私が好きな場所のひとつ。
 
私には、あぁ帰ってきた、と思える場所がいくつもある。
那須まで100キロ近く車を飛ばしてきたはずなのに、
そこに着くと、あぁ。帰ってきた、と。不思議な感覚だ。
 
そしてその感覚を覚えた後の帰り道の胸の中はほっこり暖かい。
私は、ふらりふらりと糸が切れた風船みたいに出かけているけれど、
置いてきた自分自身のパズルのピースを探しに行っているのかもしれないな、と
帰り道にふと思った。
 
もしも、そのパズルのピースが集まったら、いったいどんな絵になるんだろう。