グレンキンチーに心解ける夜

私はお酒は好きだが詳しい事は分からない。
ただ、そのシーンにあって美味しければそれでいい。そんなアバウト具合。
日本酒以外はほぼなんでも飲める。(日本酒がダメなんてホント残念!でも合わないのだ。)
機会があれば、飲み比べてみたり勉強してみたいと思う分野だけれど
普通に生活している中で実際そういった機会に恵まれる事も
美味しいお酒に新しく出逢える事もなかなかないのが現実だ。
 
しとしとと静かに雨が降る、とある夜。
田舎の夜の恐ろしく静かで、
遅くなれば当然だが寝静まっており人の気配なぞ感じる事はない。
しっとりしっぽり過ごすといえば、聞こえはいい。
だけど、何ともじわり、じわりと感じるうら寂しい孤独感。
そんな中でふと思った。
こんなしっとりと雨が降る夜に似合うお酒って何だろうな、と。
あれかな、これかな、なんて選ぶ引き出しは持ち合わせていない上に
私の手元にはそれに見合うお酒がない事は確かだった。
 
そこで、とあるバーテンダーさんに無理難題を…。
「雨降りの孤独を感じる夜をじわりと愉しむ」というテーマで飲むとしたら何か教えてください、と。
こんな無茶苦茶な禅問答みたいな質問をする私はまったくもって失礼以外の何物でもないのだけれど
こんな小娘の失礼な質問にも
丁寧に、イギリスのローランド地方のグレンキンチーはいかが?と教えていただいた。
 
実をいうと…シングルモルトを飲んだのは初めてのことだ。
出来ればしかるべき場所でデビューしたかったのだけれど、
モルトを心から楽しめる静かなバーは近くにはない。
何かとっかかりが付けば飲む事も出来たんだろうけど、何となくやっぱり敷居が高い。
ロックグラスはつい先日急逝された、ガラス工芸作家である濱田能生氏作のグラスに決めていた。
 
そして…しとしとと雨が降る夜が待ち遠しくなった。
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音もなく小雨が降る今日の夜、買い求めて届いたばかりの、
そのグレンキンチーの封を切った。
グラスに氷を入れて、トクトクトクと注ぎ込む。
口に含んだ瞬間のほんのりとした甘みと華やかな香り、
そしてとてもまろやかで、そして優しい味がした。
 
イギリスは雨が多い地域だと聞く。
これを醸造するローランド地方でもこんなしとしと雨の夜もあるんだろうな。
遠い、行ったことのない土地に思いをはせながら更けていく夜もいい。
ああ、心が柔らかく、ほどけてゆく。