ブレスレットとハンバーグ
夕方、雷も来ないようなので散歩に出かける。
子供の頃、このトウモロコシ畑が恰好の遊び場だった。
今でも私の背丈を超えるような塔立ちしたとうもろこしはいい隠れ場所になる。
ここへ分け入ってそして鬼ごっこをするのだ。
ときに草の罠をしかけたりして暗くなるまで遊んだものだ。
トウモロコシの葉に付く得体のしれないカナブンみたいな虫ばかり捕まえて遊んだ事もある。
さすがに今ではそんな遊ぶ方をする子供はいない。
(というか、人さまの畑を荒らしてはいけない)
もう云十年と過ぎたというのに、その頃の記憶というのは鮮明だ。
そんな懐かしさに浸りながら、ただのトウモロコシ畑をぱしゃりぱしゃりと写真を撮る私。
そもそもこれでは散歩にならないではないか。
はっと我に返ってくてく歩きだす。
雷雨がないという事は蒸し暑さはそのまま。
首に巻いた手ぬぐいはあっというまに汗でぐっしょり濡れる。
でも都心のアスファルトの上を吹きすさぶ熱風とは
根本的に風の質が違う。
田んぼや、川の上を吹き抜けてきた風というのは
たとえ湿度が高く蒸し暑くても風は爽やかだ。
この赤い水門の対岸は昔は見渡す限りの田んぼだった。
いつしか気が付けば開発が進み住宅地になっている。
どこぞより越してきたここに住む人たちはその当時の
見渡す限りの田んぼだった頃は知らないのだろうな。
この小さな小川の赤い水門の横を抜け(いや、実はこっそり水門の上を渡った)、
小学校の近くの大きな川まで出た。
あぁ。いい風。しばらく涼んで休憩。
座ってぼんやりしていたらすぐ近くに鳩が水辺にばしゃばしゃっと行水しに来たりして。
この川は五行川(ごぎょうがわ)。
五行川近くの神社に祀られているのが鯉というのもあって、
この地域では五行川で採れた鯉は食べない習わしである。(とにかく鯉はわんさといるらしい)
まだ手がかじかむ寒さの頃に、この水辺に寄る鴨に家から持ってきたパンをちぎって与えていた時のこと。
勢い余って、手首に付けていたブレスレットをぽこーんと外れてしまい
ぼちゃーーーんっ、とパンと一緒に投げてしまった事がある。
あぁ。大事にしていたのに、と意気消沈。
友人になんてこった、と愚痴った所、イソップ童話の「金の斧」の話をされた。
そんな発想などなかった私。目からうろこが落ちる。
そして、ほどなくして懸賞に応募していた「近江牛のハンバーグ」当選の連絡。
おっと。今思えば失ったブレスレットは、ハンバーグに化けて帰ってきたのかなぁ。
もっとも既に食べてしまったのだけれど。
異質とも思える、タイトルの「ブレスレットとハンバーグ」の伏線はここにあるわけだ。
そんなことをふと思い出しながら水面を眺める。
さぁて、帰ろうかね。
ってこれ、隠居のじい様かっ!
いいえ。ぬっこの日常である。
本日の歩行距離 4.8キロ