ゲストへのラブレター

部屋にあるアンケート。
実際の回収率は1ヶ月当たり2.5%ぐらいのもので決して大多数の意見ではない。
それでもデータを集計してみるとその月々の傾向ははっきり出る。
レストランのサービスの良し悪し、料理の味…。
アンケートの項目は非常に良い、良い、普通、悪いの4つ。
十人十色の意見を書かれる中でも数字ははっきりと指針を示す。

アンケートを書いてくれるのは、非常に良かったと思ったか
逆にそうでなく一言言わなければ気が治まらないかのどちらかだと思うのだが
そのどちらも当てはまらない「ふつう」と思われたゲスト
「なんだこんなもんか」と思われたゲスト
「言うのはなにかと面倒なので言わないけど二度とこんな所来るか」と思われたゲスト
多分いろいろいる。見えてこない意見は多い。

だからこそ、私はこちらに発信して頂いた意見は大事にしたいと思う。
字は下手だし、文章も稚拙かもしれない。
それでも、どきどきしながら一文字一文字に私は気持ちを込め、封をする。
封を開けてその思いが伝わるように。
まるでラブレターを書いている気分だ。

1枚1枚その日の天気や自然の話題を織り交ぜて手書きで礼状を書く。
礼状にはその月々の写真。敷地の緑の写真だったり青空にススキが揺れるものだったり。
昨日は蓮の花が咲いたので、ここ数日限定で使おうと
ちょうど綺麗に花開いた、大輪の蓮の花の写真を使うことにした。
写真を撮る事も、その礼状に封入するモミジの押し花にしろ、
また1件1件手書きで文章を書くにしろ、時間と手間がかかる。
だが、わざわざ家に帰ってからポストに出向いて投函してくれたコメントも多い。
その気持ちは無駄にしたくない。内容はいい事であってもたとえ悪い事であっても。

それでも去年よりアンケートが戻ってくる件数は減っている。
つまり「ふつう」だと思ったゲストが増えたということ。
数字はやはり正直に答えを返してくる。
会社としては、仕事の効率化を計る為にそれらの返礼を辞めようという動きもある。
他の所でそこまで時間をかけている所はない、と。
だけど私は辞めちゃいけないと思う。
他と同じではダメなんだ。
だって私は「ふつう」のホテルではなく「非常に良い」ホテルにしたいんだから。

こうして平社員の格闘は続いていく。
周りのスタッフは会社の都合で通告なしに大幅に下げられた給料の話ばかり。
確かに必死にスタッフが売上を上げても、
それらは還元されることなく、代わりに新しく購入した非常に高価な芸術品が届く。
それはモチベーションを下げる大きな要因なのは間違いない。
実際その辺の事を考えると、仕事なんて真面目にやっても意味がないと思えてくる。
だけど、多分私は会社のためじゃなく自分のために仕事をしている。
(本当は会社員としてそれはダメなんだろうけど)
だから私はベストを尽くす。