星空を見上げて

子供の頃、星を眺めるのが好きだった。
空に輝く星の今まさに目に映っている光は何千年も前のものだという。
本当はその星はもう消えてないのかもしれない、
その星の光を神妙な気分でいつまでも眺めていた事を覚えている。

数ヶ月前まで、私は禁煙をしていた。
過去形なのは、今既に禁煙を辞めてしまったから。
1年数ヶ月続いた禁煙はある日を境に潔く諦め(そんな潔さは必要ないが)
今では禁煙していた事すら忘れている始末だ。
タバコを吸い始めたのは多分ちょうど10年前のこと。
厳しい両親のもとに育った私は、その当時両親に隠れてタバコを吸っていた。
皆が寝静まる夜になると星を眺めながら、
家の裏手で飴の丸いふた付きの空き缶を灰皿代わりにして
タバコを吸っていた事は、今となってはいい思い出。
もっとも、今も部屋にタバコの匂いが染み付くのが嫌で、
ベランダでしかタバコを吸わないし
未だに両親は私がタバコを吸うことを知らないので
年月が過ぎても、結局の所ちっとも変わっていないのだが。

朝方、寝る前にタバコを持ってベランダに出るために窓を開けた所で
思わずわあっ、と小さく感嘆の声を上げた。
久しぶりの満天の星空。
この辺りはたいした外灯もない。
だから星が綺麗な夜は、こんなに小さな光があったのかと言うぐらいに沢山の星が見える。
冬の星座の代表格のオリオン座が東の空に昇り始めている。
もう秋。今の時期にはひっそりと朝方昇ってくるオリオン座も、
あと数ヶ月もすれば夕暮れと共に空高く昇ってくるようになるだろう。
眠らない貨物列車のカタタタン、カタタタンという車輪の音を遠くに聞きながら
タバコの煙をふーっと唇を尖らせて吐き出すと、
満天の星空に向かってふわっと煙が広がって消えて行った。
風が下から上に流れている。明日はきっといい天気になるに違いない。

どうも最近夜眠れずに、朝を迎えてしまう事が多い。
抜けるような青空を窓から恨めしそうに眺めながら大あくびとともに今日も仕事。
学生の頃、いつも朝方寝て、学校の授業中はほとんど居眠りしていたような気がするが
社会人になりちゃんと社会生活は送っており、仕事はちゃんとこなしている。
だが、周りと私の間には時差があるんじゃないかと言うほどの夜型生活も
空を見上げてタバコを吸う癖も、多分何も変わってない。

10年前、本気で私はノストラダムスの大予言を信じていて
20歳前半で私の人生は終わると思っていた。
だけど、大予言は幸いにも大予言のままで終わり、のんべんだらりと毎日が過ぎている。
10年後もしそのサバイバルに生き残ったら自分が何をしてどこにいるんだろう、と
いつも考えていたけれど、そんな危機は訪れず
環境も考え方も少しだけ変わったし、また沢山の人との出会いもあり、それと同じぐらいの別れもあったけど、
多分当の本人である私は何も変わってない。

でも最近雨が降ればどこかで大洪水になるし、
地震がくれば揺れに揺れて地滑りが起き建物が崩壊する。やっぱり何かが変だ。
あと10年後、私は何をしているんだろう。どこにいるんだろう。
結局なにも変わらないとやはり朝方の星空を見ながら、タバコの煙を吐き出してるんだろうか。