見えないからこそ

早口で矢継ぎ早に話をされる方がいる。
こちらの話をまったく聞いてくれない感じの方。
それでも予約を取る以上は最低限の名前や住所は伺わなければいけない。
必死で相手の会話を聞き取り、必死で言葉を返す。
大抵そんな時の私の口調は強くなるし、また早口になる。

私の良くない所だ。
早口な人に程、ゆっくり柔らかい口調で話す。
そのうちにこちらのペースで相手の口調も柔らかくなり、ゆっくり話すようになる。
そうなればこちらのもの。
多分その早口に輪をかけて更に早口になる私は駄目な例。
相手のペースに飲み込まれている。
飲み込まれて溺れかけ、受話器を持ったまま眉間に深い皺をぎゅっと寄せて話していた私を見て
GMが目を丸くして、しばらくして受話器を置いた私の所にやってきて言った。

電話だからこそ笑顔じゃなくちゃ。
言葉のトーンは強いだけじゃ駄目。強弱をつけなきゃ。
会ってみたいと思われるような電話口での話し方をしなさい、と。
あの顔じゃゲストの前に出られないでしょ、と。

返す言葉もない。
確かに私は相手のペースに負けじと意地になって案内していたような気がする。
相手がどんな口調だろうが、どんな状況だろうが均等に接客しなくちゃいけない。
当たり前。
冷静な時はその相手のペースを自分に引き込むのを楽しんだりする余裕もあるのだが
多分そんな顔をしている以上その余裕は当然なかったに違いない。

それにしても受話器を持って話す私を見たGMの顔といったら!
鳩が豆鉄砲でも食ったかのような顔。
私がそんな難しい顔をして何事かと思ったそうだ。

たまにそんな風に言ってくれるおじいちゃんは嫌いじゃない。
今度そんな皺を寄せたら、俺が延ばしてやる、だそうだ。
気を付けよっと。