輝く月の下での素敵な出会い

昨晩のこと。今朝が可燃ゴミの日だった。
本当はいけないのだが夜のうちにゴミを出そうと大きなゴミ袋を持って
ゴミ捨て場までコソコソと歩いていく。
駐車場の片隅にあるゴミ捨て場の大げさな鉄の扉をそっと開け、
膨らんだゴミ袋を置き、ガタンと閉める。
後ろめたい事をしている気分なので、なんとなく思いのほか周囲に大きく響くガタンという音に
びくっとしながら部屋に戻ろうと歩き出したら、か細いニャァという鳴き声が聞こえた。

周囲はアパートやマンションばかり。あまり猫の声を聞く事はない。
聞き覚えのない猫の声に見回して見たら、物陰から強い視線を感じた。
目が合ったら、またニャァ。

君はどこの子なの?飼いネコ?野良ネコ?

小さい頃から家ではずっとずっと沢山のセキセイインコを飼っていた。
インコに飽き足らず、巣から落ちたスズメやヒヨドリムクドリの雛を育てた事もあった。
いつも鳥や雛がいた、そんなうちではネコは飼った事がない。
しかも自分の記憶を辿っても、この歳までネコと遊んだ事が1度もなかった事に唐突に気づいた。

人懐っこいそのネコはグルグル喉を鳴らしながら、私にすりよってくる。
撫でてもいいものかと恐る恐るしゃがんでそっと頭を撫でた。
私の膝の上に前足を乗せ、大きな目を細めながら体をすり寄せたかと思うと
驚くほど身軽なその子は私の膝の上にあっという間に飛び乗って
まるでそこが元から自分の寝床だったかのように
慣れた様子でくるっと丸くなってそのままそこで落ち着いてしまった。

道端の縁石に腰かけて、初対面とは思えないほど人懐っこい知らないネコを撫でながら、
ふと空を見上げたら白い月がこうこうと私達を照らしていた。
ひんやりした空気の中、そのネコは膝の上でものすごくあったかくて
このままこの子を連れて帰ろうかと思うぐらいにつぶらな眼で私を見つめていた。
特にネコ好きでもなかった私を気まぐれに好いてくれたその子を
邪険にすることも出来ずに、月を見上げながら
縁石から伝わる冷気にだいぶ冷えてしまうぐらい長い時間ネコと時間を過ごす。
ただそそくさとゴミを捨てに外に出ただけだったのに、こんな素敵な出会い。
それにしても不思議な夜だ。

素敵な出会いだが、別れはあっという間に訪れる。
うちには壊ちゃんがいるのでこの子は一緒には飼えない。
しばらくその子と深夜の密会を楽しみ、そして後ろ髪ひかれる思いで別れを告げてきた。
朝、そのネコとまた会えるかと思ったがもうどこにもいない。
家にちゃんと帰って誰かの膝の上で丸くなって寝ているのだろうか。

ちゃんとご主人の元へお帰り。
またどこかでその子と会えるだろうか。