都合がいい

実家に帰った。
帰ったというよりは立ち寄ったに近いかもしれない短い滞在だった。
保管してあった冬用タイヤへの交換と車の点検が目的。
ディーラーの営業所はうちの近くにもあるのに、
どうもやっぱり顔馴染みの営業マンさんがいるのでわざわざ点検まで実家の近くのディーラーに行く。

生まれ育った実家、最近帰る毎に新しい道が出来ている。
市内に高速道路のインターが出来るようで、そのせいかなかった場所に信号が出来、
今まで田んぼだった場所のど真ん中に道が出来、そしてその道を中心にして新しい町が出来ていく。
まるでシムシティみたいだ。
小学校の時に通ったあぜ道なんて跡形もない。
なんだかちょっと悲しい。

私の小さい頃この土地で過ごした記憶は途中で途切れている。
小学校の6年間はものすごく鮮明なのに、
病気で転校するまで過ごした中学校の1年間がほとんど思い出せない。
教室がどんなだったか、何階にどの教室があって、クラスメートがどんな人だったか、
色あせてまるで他人のアルバムを見てるみたいな感じだ。
人間関係でいろんな事があったりして苦労したり、病気で辛い思いをしたことが原因かもしれない。
人間の忘却という機能にはガス抜きの役割もあるらしい。
思い出の引き出しは鍵がかかったまま、その時代だけ開くことはない。

ガス抜きが思い余って必要な事まで忘れてしまう事もしばしばだけど。
楽しい事だけ覚えている私は、なんて都合がいいんだろうか。