呪文のように

先を見る、先を見る…
雪道を運転している時の私の呪文だ。

私は運転が絶望的に下手だった。
免許を取りに教習所に通っていた頃は既定時間で教程を終了出来なかった。
あなたに運転は向かない、辞めた方がいいとまで言い切られた。
確かに今考えたら、イライラするくらい酷かったような気がする。
まずカーブが曲がれない。
教習所内コースの緩やかなカーブだと言うのに、ハンドルを一杯に切ってしまう。
当然車はあさっての方向を向く。
外周が1周出来ないのだ。
バックなんて酷い。
どっちに車が向くかしまいには訳が分からなくなり、
いつになっても車庫入れ出来ない始末。

賄賂でも贈って取ったんじゃないかとさんざん言われた私の免許。
今の私に至るまでには、自分なりの苦労がある。
免許を取ってからも走り出したら止まらない、いや止まれない。
だって、バック出来ないんだから。コンビニにも寄れない。
そんな状態で、栃木で車を購入し、無謀にも千葉まで乗って来た。
ちょうど学生の頃住んでいた所は、家の前の道をまっすぐ走るとそのまま海だった
砂浜なら大回りにUターンできる。
毎日毎日用もないのに練習の為に往復で60キロ。
そのうち目線を進行方向に向けると、
その方向に向くように自然と必要なだけハンドルが切れる事を知り、
距離を走るうちに速度を出せるようになった。
市街地が走れるようになったら、少しカーブの多い山道。
慣れるまでは同じ道を毎日走りつづける。
それが慣れたら、つづらおりの山道。
そうして自分なりの1人教習を毎日繰り返すうちに
それが日課になってしまい今の暴走ぬっこがいる。

だが、道路事情が変わる雪道になると、その頃の酷い運転の片鱗が見え隠れ。
路面を気にするばかり、自分の目線は多分ボンネット辺りを見ている。
ボンネットの辺りを見て、運転しようとすれば恐いのは当然。
ハンドルを切りすぎて、無駄な動きが増えれば滑るのも当然。
そんなときに「先を見る、先を見る…」
初心に返るってきっとこういうこと。

もっとも初心に返っても恐い時は恐い。
今日は風で巻き上げられた地吹雪で視界ゼロの中、突然停車した前の車が現れた。
慌ててブレーキ。
…そのまま全く止まらない。
一度ブレーキから足を離して、何度かこまめにまたブレーキ。
寸止めである。
ぶつからなくてあぁよかった。

昨日、今日とで山はまた雪が降っている。
明日の出勤も、「先を見る、先を見る…」