さよならの儀式のために

一応今月末まで会社には籍があるのだが、
諸事情からもう会社に顔を出すつもりはなかったりする。
ある出来事から急遽休む事となりそのまま退社の運びとなってせいで
私のデスク周りの莫大な荷物もそのままになっており
そのうち同僚にお願いして持ってきてもらう事になっている。
PCの中に個人的な怪しい文章は残してきていないだろうか…。
今となっては野となれ山となれなのだが。

どこかの誰かの言い回しを使わせてもらうと
そんな事は「あり」「なし」で言えば…なしだろう。普通。
普通は辞めると決まれば菓子折りを持っていったりして
各部署やお世話になった方々にご挨拶まわりをするのが通例だ。
行きたくないから行かない訳じゃない。
悲しいかな訳あって行けないのだ。

スタッフが1人くらいひっそり辞めていった所で
会社がどうなるものでもない事はよく分かっている。
実際私がいなくなってからも何事もなかったかのように日々回っているに違いない。
だが、私自身それでは気がおさまらないのだ。
悪い事をしてクビになった訳でもなんでもないのに
みんなにさよならもせずにこっそり去るなんて絶対に嫌!
皆は私に何も言いたい事はないかもしれない。
だけど私は皆に言いたい事がある。
自分がこうしていろいろ考えるようになったのは皆のお陰。
誰か1人という訳じゃない。
一緒に働けて、私と関わった沢山の人たちのお陰。
人に助けられて今の自分がここにいる事をひしひしと感じているのに
ありがとうも言わないで黙って去るなんて失礼だ。

だけどさよならを言う手段は会わなくともある。
ヒントは普段から私がしていた仕事。
そう!皆に手紙を書くこと。
伝書鳩さんはデスクが隣だった同僚の『のっぽの森の案内人』に頼もう。
個人的に親交があった方にはひとりひとり、
あまり関わりを持たなかった方達には部署宛で手紙を書いた。
それぞれ今までにあった出来事や顔を思い起こしながら、一文字一文字綴る。
年賀状だってロクに出さない(ここ数年1通も書いてない、駄目です)のに…。
その数、20数通。かかった時間、多分10数時間。
手首が痛い。指が痺れて感覚がない。ひじもおかしい。
そして小指の付け根から手のひらの横がペンのインクで真っ黒だ。
まだ終わっていないがようやく終わりが見えてきた感じ。

それを受け取った方達がどう思うか、
それ以前に封を切って読んでもらえるのかどうかすら私は知らない。
何かが還って来るとも思っていないし、何も要らない。
それでもいい。返事が欲しくて書いたんじゃない。
そこにそれぞれに宛てた自分の気持ちを綴る事に意味があったのだから。
自分の中で先に進む為に、きちんと区切りを付ける事。
不器用だからこそ、いい加減にしたくない。

封筒がなくなってしまったのでまだ全部は完成していないけれど、
午後思い立って始めてから今までかかってやっと後半戦。
外ではカラスが鳴いている。朝になってしまった。
ついでに部署毎に配る菓子折も用意して…
伝書鳩を頼むはずが季節はずれのサンタになってもらう羽目になりそうな気もする。
準備にまだ数日かかりそうなのでその辺は追々…。