出勤停止生活1日目

出勤停止とはいえ体調的に外出できるのなら出かけても何ら問題ないはずなのだけれど
会社に来るなと言われている割には実は普通に生活するには支障のない体調なので
なんだかちょっと内心うしろめたい。

悪い事をした訳でもない、自宅謹慎処分でもなんでもないんだけど・・・。
そのうしろめたさから帽子を深く被り、マスクのいでたちでさながら変装でもしている気分で
こそこそ人目を気にして買い物に出かけ、
そして忘れちゃいけない肝心の検体(要するに検便)を宅配便で業者に送付してあとは家でゆっくり過ごした。

転職を決めたときに暇になり時間を持て余すだろうと思って古本屋で買い込んだ本があったのだけれど
実際にはゆっくり読むような心境には程遠く、結局放置していた文庫本をふと見つけて1日読みふける。
恥ずかしい話、腰を据えて活字を読むのなんて何年ぶりだろう。
小さい頃は週末になるたびに市立図書館に通い、学校の図書室の本も読破するぐらいの勢いだったというのに。
なんとなくそう思いながらゆっくりと過ぎていく時間の感覚すら忘れて読書に没頭。

その『本を読む』っていう当たり前かもしれない行為を私はもう何年も忘れていて
いつも顧客満足度を上げるためには、とかオペレーションがどうとかそんな事ばかり考えている頭を
まるっきりストップさせてとにかく15cm×10cmぐらいの紙片にびっしり並んだ活字の世界にのめりこむ。
読み疲れたら休んで食事して、気が向いたら部屋を片付けたりしてまた本の世界にのめりこむ。
本自体が面白かったというのもあるけれど、何よりも読書という行為に没頭したその時間が
私にとってみたら完全な非日常で、家で独りで過ごしているだけだというのに
何故か新鮮で妙にウキウキした気分だ。
普段はテレビをみながらゴロ寝するぐらいしか使っていないソファーも
座ってみたら結構居心地がいいし掛けているカバー、こんなに肌触りよかったんだっけ。
なんだか自分の部屋なのに過ごし方が違うと感じ方も違う。

大抵家にいるときは見ていても見ていなくてもテレビが付いている。
ニュースだったりドキュメンタリーだったりはたまたテレビショッピングだったり。
内容は実はほとんど見ていなくて、最近流行りの音楽も、売れているお笑い芸人もほとんど関心がない。
だけど常に視界に動き続ける映像があって、無意味に人の声やら音楽やらが流れてる。
テレビって集中して見るものじゃなくてなんとなく流れていて視界に入るもの。
だけど、本を読むにはその当たり前のその画面から流れる映像やら音やらが妙に邪魔に感じる。
私が非日常だとふと感じたもう1つは自分の生活からこのテレビを切り離したこと。

何故かその『ちょっとうしろめたい出勤停止生活』の1日目は
自分の部屋で非日常を味わって有意義に、そしてあっという間に過ぎていった。