淘汰

祖父母は伊豆に別荘を持っていた。

小さい頃の家族旅行の思い出といえば、夏休みのたびに別荘に出かけたものが多い。
サンデッキでバーベキューをしたっけ。
温泉に入るのが楽しみだったな。
近くの港に散歩に出かけたりもしたなぁ。
アリの大群が部屋に入り込んでいて大騒ぎになったこともあったし
特大蜘蛛や特大ムカデに恐れおののいたこともあった。
思い出すのはそんな他愛もないエピソードばかり。
大人になってからは、勝手に合鍵を作って実は何度となくふらっと訪れていた。
海に近かったしなんとなく隠れ家気分だったしそんな大好きな場所。
そして何より私の中ではものすごく思い入れの深い大切な大切な場所のひとつだった。

祖父母は数年前に亡くなり、そしていよいよ別荘は売りに出されることになった。
ちょうど今、両親が諸々の片付けに行っており、そこで見た景色はまるでお化け屋敷だったと。
雨漏りがして、伸び放題の木々が敷地を覆いつくし家は外から見えないほど。
携帯に送られてきた写真カビがびっしり生えた壁紙だった。
家には住む人の魂が宿る、と勝手に思っている私。
その家は主を失って淘汰されつつあるということ。
変わり果てた姿を見てなんだか言いようのない寂しさがどっと押し寄せた。

祖父はハンディークリーナーになぜか『徳造丸』と名前を付けて大事にしていた。
徳造丸もきっと押入れに何年何年もひっそりとしまわれて家と一緒に天寿を全うしたのだろう。

家は何ヶ月後かに全てキレイにリフォームされて何事もなかったかのように売りにだされる。
そのうち新しい命を吹き込まれ、新しい魂が宿るんだろう。

今の家は時間の流れに淘汰されつつあっても、
私の中にある別荘の思い出は一生忘れない。