当たり前だけど当たり前じゃない

那須にいたのは、もう2年以上前のこと。
そこで過ごした3年間は、本当に貴重で、そして濃い経験だったと今でもしみじみ思う。

ちょうど新館がオープンするのに合わせての入社。
オープニングでバタバタ、新しい人たちが沢山入ってきてのいろいろな人間模様。
今考えると日本を代表(?)するようなホテルマンやソムリエがわんさか。
お客様も著名人有名人がわんさか。
そんな中でひょんなことから働く事になった、片田舎の温泉ホテルの小娘(私だ)

サービスについて一から叩き直されたし、教えられたこと、学んだことは計り知れない。
何よりもホテルマンとして私が生きていく上でのターニングポイントになったのは、
そこにいた人たちやお客様との出逢いだと思う。

誰もがどうやってお客様の時間を演出するかを常に考えて動いていたし
それぞれの仕事のやり方や考えがぶつかって本気でつかみ合いのケンカする人も沢山いた。
そんな中で私自身いろんな思惑に巻き込まれたり、悔し泣きすることも沢山あったけれど
本気で仕事とぶつかって悩み、そして本気で仕事を楽しんだ3年間だった。

時間が経った今ももちろん、そこは存在しているけれど、
一緒に働いた先輩方は自分で店を出したり、別のホテルを立ち上げたり、
また別のフィールドで奮闘していたりして、ほとんどの人はそこにはもういない。
だから私にとって、あの場所は見慣れた特別な場所には違いないが、
そこは、あの頃とは違う、別の場所だ。
でも・・・。
時間が経ってまた別の場所で、そこで出逢った上司と働いていて、
またオトナゲナイオトナが、おもてなしを仕掛けようとしている。
その上司と一緒に働けるということは、
私にとってみたら、別の場所であの頃と同じサービスが出来るということだ。
しかも、あの頃からは時間も経ち、経験も少しだけ積んで、
片田舎の小娘だった頃よりは、もう少し吸収する土壌が出来ているような気がする。
こんな風に誰かから学ぼうと思いながら仕事が出来るってステキなことだ。
そして昔の私と大きく変わったことは、一緒に働く仲間たちに対しても
私自身が、学ぼうと思ってもらえる存在でありたいと思うようになったこと。

今でこそ高単価のリゾートホテルで、
バトラーサービスなんて言い方が当たり前になったけれど、
それって多分「私達はそういうサービスをします」と、うたい文句にする以前に
当たり前にすることなんじゃないのかなぁと思ったりもする。
先日お客様を連れてお食事にいらした、本社の社長からメールが来ていた。
「大変貴重な経験をした」と。
察するに社長は国内外の高単価のホテルはひととおり利用されている方だし、
私たちも私が信じる当たり前のサービスをしただけのこと。
けなされる事はないにしろ、そんなに貴重な演出をした覚えもない。

そっか。
私たちにとっての当たり前は当たり前じゃないのかもしれないなぁ、と。

晴れ渡った見事なお山の景色を見ながら、
ある意味で、伝説のバーテンダーだった上司はバーカウンターがやっぱり似合うと思いつつ、
カウンターにもたれかかって高い椅子で足をブラブラさせながら、
あれやこれや、昔話とよもやま話。

今考えてみたら、私はホテルの立ち上げに関係するのは、これで3回目だ。
今まで最も濃く深く絡んでいるけれど、このバタバタや緊迫感が
たまらなく好きな瞬間でもある。



今のホテルが立ち上がってしばらくしたら通算4回目の立ち上げがまた待ち受けている。どうか実現しますように、、、