ぬっこ、溶ける

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温泉から出るのが「もったいない」と思うのは、何故だろうか。

今回の旅のテーマは「ふやけるまで温泉に浸かる事」。

今、四万温泉に滞在している。
逗留している積善館は棟が3つに分かれていて、
斜面に本館、山荘、佳松亭とそれぞれの建物が
長い長い渡り廊下で繋がれた造りの宿だ。

私が滞在しているのは、本館。
この本館は最も湯治場らしい、スタイル。
食事も一般の温泉旅館の料理に比べたら簡素だし、
布団の上げ下ろしも自身でする。
仲居さんも付かない。

だけど…この業界で働いていた私としては、
あえて選んだ湯治場スタイルなのだ。

部屋の清掃状況は?
仲居さんの立ち居振るまいは?
いやがおうにも気にしてしまう。
ゆっくりしに来たのに、そこから何かを吸収したいと貪欲に目をこらす。

業界から離れて、早いもので半年近く経つ。
だが身体に自然と染み着いた事は一朝一夕には抜けない。

私はただ、ただ温泉を愉しみたいだけなのに。

だから、湯治。

以前佳松亭に滞在した際の懐石料理は本当に美味しかったし、
仲居さんも凄く機転の効く方だった。
それはそれで捨てがたい選択肢だったのだが、
でも今回もちゃんと二食付いているし、
申し分なく快適そのものである。

ところで、この宿には4つの温泉があり、
そのうちの最も古い「元禄の湯」は、その鄙びた雰囲気がたまらない。

こんな温泉が時期的なものもあってか、
人もまばらでいつ利用してもほとんど貸切状態。

湯船にゆるゆると身体を沈めると、
うーともあーとも付かない腹の底から声がでる。
浴槽の縁に頬杖を付きながら、
柔らかいお湯に身を任せると、顔が自然とゆるむ。

そんなだらしない事この上ない顔で、
ぬっこ、温泉を心から満喫中。
溶けて温泉成分に混ざりそうだ。
あぁ。良きかな。

千と千尋の神隠しのモデルになったこの宿。
今晩、八百万の神様は、この至福のお湯入りに来るんだろうか。