ぬっこのカクテルの街放浪記 その3

柔和な笑みに迎えられ、カウンターに腰かけたらひどいカクテルが出てきて、
またさわやかな笑みでエレベーターまで送ってくれたお店を後にしながら
さてと。どうしたものかとふと悩む。
 
バスの時間を考えると滞在リミットは多分23時ぐらいまで。
その限られた中でのリベンジをどうしたものかと。
夜の宇都宮の人通りは少ない。
昔はもう少し全体に活気があったように思うのだが、私の記憶があいまいなだけだろうか。
少しだけ涼しくなってきた風をあびながら、ぶらぶらと通りを歩く。
 
もう1軒行くか、このまま帰るか。
何となくそんな風に、ぼそりとひとりごちてみたものの、
足は完全にバス停方向には向いていないので自分の中では帰るつもりはさらさらないらしい。
美味しいモヒートに固執することもないんだけど、やっぱり後味が悪い。
 
大きな通りを渡って、裏路地へ入り込む。
そこは宇都宮市泉町、一応地方都市のネオン街。
でも空きテナントは目立つし通りを往来する人もまばら。
それでも途端に短いスカートのお姉さま方が店の前でタバコをふかしていたり、
仲良く腕を組んで、大声で歩きながら右へ左へふらりふらりと蛇行しながら歩く、
典型的な酔っ払いおじさまがいたり、やっぱり辺りは途端に猥雑な雰囲気に包まれる。
ちょっと閑散としすぎていて、そこをてくてく一人で歩く私は明らかにミスマッチで
逆に目立つような気がする。
どこかいいバーはありませんか?と、そこで遅くまで開いていた昔からの八百屋さんの大将にリサーチ。
この道をまっすぐ行って、左側のビルの1階、とすいかを撫でながら指をさして一言。
 
その言葉に従っていくと、ビルの1階の更に裏路地に、1軒の店があった。
パイプのけむり、いわずとしれた名店である。
数々のお弟子さんを送りだした初老の小川氏が経営するお店。
(でも実はちょっと苦笑いしてしまったのはここだけの話。)
 
店の扉にはこんな文言が。
 「私どもは決して一流や高価なパブではございません。せいぜい甘い点をつけても二流の上ぐらいでしょうか
 ただ、あなたの心のよりどころを少しでも豊かにしたいという念願から新しいセンスの店づくりに
 精一杯の努力をしているつもりです。二流の上の雰囲気をお試し願えれば幸いです」
大抵、自分の店は一流だと豪語する三流店が多い中で、なんと謙虚な言い様だろうか。
 
イメージ 1
店内は、雑然とした昔ながらのバーという雰囲気。
お弟子さんとおふたりでやっていらっしゃって、会話と会話の間の取り方、距離感、
それから常連の別のゲストも初めて来た小娘の私もきちんとケアしていらっしゃる具合…。
当たり前の事だけれど会話も一つの大事な要素だという事を
体得していらっしゃるのを肌で感じるお店だった。
ひとつ前のお店でのモヤモヤがさっぱりすっきり払拭されていく。
 
イメージ 2
ここのモヒートは、ミントをグラスにもっさり入れた後で丹念につぶしていく。
こうする事で香りが広がるんだそうで。
確かに、嫌な苦みのない、ミントの野性味あふれるさわやかな味。
写真を撮っても・・・と言ったら、小川氏の小道具が。
グラスを置くとLEDライトが下から照らしてくれるコースターが出てきた。
小川氏、小ネタ好きである。
 
お隣さんカップルが、季節外れのとちおとめをオーダーされたので
若い方が慌てて八百屋に走っていく。あ、さっきの大将のお店ね。
イメージ 3
既に口をつけてしまっているのだが、その、とちおとめにあやかって私もオーダー。
だって、ひとつのカクテルに使うイチゴってせいぜい数個。
お姉さんの一言で買いに走った一パック分のイチゴ、もったいないもの。
 
ご存じの通り、私は基本は突発的になんでも行動する。
思ったら即行動。躊躇することはあまりない。
よく言えば即断即決。悪く言えば…時に行き当たりばったり。
だから、予定をひとつひとつ決めて動く人にとってみると、
私の起こした行動に誰かが関わるときにはご迷惑にになることも。
つまり突発的に訪れて、「突然過ぎ!」と驚かれると(いや、場合によっては叱られる)いう事。
私の予定表にあらかじめ書き込まれるのは病院の予約ぐらいのもので
それ以外は大抵その日その日で決めているようにも。
その行動が、ミラクルを引き起こす場合もあればそうでない事もある。
その場で、こんな時期にわぁいちご!と飛びついた私。やっぱり突発的である。
このカクテルとは、そんな突発的で素敵な出逢いだった。
 
ここの小川氏、昔々の若かりし頃は、那須ビューホテルにいたというから驚き。
ビューホテルといえば…那須で働いた頃の研修で、
男性陣が露天風呂で裸踊りをしていたのを窓越し遠目に眺めたような記憶が…。
私あの日、酔っ払って、他人の部屋で雑魚寝したっけ。
 
そんなとんでもない記憶まで、飛び出して来る会話の妙。
あ、ところで終バスの時間って何時だったかしら…今は21時50分を少し過ぎた所で…
携帯で調べて、びっくり・・・22時!ぎゃっ!もう10分切ってる。
それを逃すともう帰る術はない。
私が23時と記憶していたのは、家の近くのバス停に到着する時間だったらしい。
 
も、もう帰ります!と帰るのも突発的だった私。
もっと話したかったのにな。
 
当然帰りのバスは、行きのバスと同じ運転手の方。
おっ、十分に飲めたかい?なんて運転手の方に話しかけられながらあわただしく帰宅。
ぬっこのカクテルの街放浪記、これにて終了。
結局赤ちょうちん2軒、バー2軒。次回の開催は…また突発的に。
 
夢酒OGAWAパイプのけむり
住所:栃木県宇都宮市泉町2-19
電話:028-621-9281
営業:18:00~26:00
定休日 日曜