汚名挽回

私は文章を書くのは苦手ではない。むしろ好きだし得意な方だ。
だが、言葉にするのは実はひどく苦手である。
自分の本当に言いたい事をとっさに的確な表現で相手に伝える事が得意ではない。

今日取った電話。
お客様からの空室照会。希望の日の空室をお知らせした所、静かにお客様が怒り始めた。
満室だと言われて数日前にキャンセル待ちの登録をしてあったのに、
なぜ自分に部屋が空いたという連絡がないまま、
こうして名乗らずに空室の問い合わせをしたら
その日が空いてるという答えが返ってくるのか、と。ごもっともである。

キャンセル待ちはキャンセル待ちできちんと予約で管理している。
システムでキャンセルが出た日をリストアップして
それぞれの日にちのキャンセル待ちと照らし合わせて該当のお客様にご連絡する。
だがたまたまその作業をしていたスタッフのミスなのか、漏れてしまったのだろう。
お客様には数分前に空室が出て、
ご連絡差し上げる前に手違いでこのような形でご案内してしまった、とご説明したが
当然納得するはずがない。
自分で言うのもなんだが、そんな理由はっきり言ってうさんくさいし
私もあせってしどろもどろである。
とにかくお詫びして予約を取り、受話器を置く。

そのお客様はリピーターの方だった。
うちのホテルのファンだとおっしゃってくれていた方なのに、
ご気分を害されてしまった。挽回しなくちゃ。

その方、もともとメールでのやりとりを希望されている方だった。
最近何故か書きなれてしまった詫び状を取り急ぎ書いて、
そしてさらにご予約の内容の確認も併せてしたためてメールを送信する。
この方はご自分が優遇されている、と感じたいタイプの方のようだったので
夕食をプランの案内ではない別のレストランを特別にご案内すると
お詫びの意味も込めて特典も付けた。
お客様が来館されるイメージを少しでも膨らませられたらと思って
そして数日前にうっすら積もった山の雪の話題や、
敷地の紅葉の話などもその文章の最後に付け加えた。

それから数時間後…。
四季折々の景色を是非見てみたいものだ、秋だけでなく冬にも来てみたいと
非常に丁寧なメールの返事を頂いた。
奥様が普段お仕事で疲れていらっしゃるというので
ゆっくりしたいのと感謝の意味を込めてのご宿泊とのこと。
なにやら記念日とのことだったので、
さらにレストランの席は窓際の眺めのいい席をこっそり手配して
またシャンパンをこっそり部屋に入れてもらうように手配した。
早く部屋に入れればとちらりとおっしゃっていらっしゃったので、清掃を急がせる手配。お客様には全部内緒。いちいち知らせる必要なんてないから。

ファンだと言ってくれるお客様をがっかりさせたくない。
今は裏方でお客様が喜んでいただく顔は見られないけれど、
それでもきちんとお礼状を書いたお客様でまた予約を入れて頂ければ
システムで見て分かるし
また、得意な文章を書く事でお客様と関わる事だって出来る。
今自分が携わる仕事は望んだわけではないけれど、
もしかしたらこんな風に縁の下の力持ちみたいにそっとお客様と関われる仕事が
私には向いているかもしれない、とふと思った1日。